学びプロジェクトはこうして生まれました

 予備校業界で20年以上いる私が言うべきことではないかもしれませんが、ずっと抱いてきた疑問があります。

 開塾当時に書いた文章です。
 17、18年に加筆しています。

 あえて、そのまま掲載します。
 読みやすいように、改行や改段は改めました。

 どうして高校生たちは、昼間高校で授業を受けた上に、塾や予備校でまた授業を受けるのだろう。
 
 こんなに一生懸命勉強して(長時間勉強して)、どうして成績が伸びないんだろう。


 たしかに、塾や予備校で得るものもあるでしょう(そうでなければ、私の仕事には価値がないことになります)。しかし、重複している部分も多い。というか、ほとんどが重複しているはずです。
 その残りわずかのために、彼ら/彼女らはどれほど時間を使っているのでしょう。

 逆に、こんなに長時間授業を受けていたら、自分の勉強ができるわけがないという思いもあります。 
 現に、学校のテスト前になると、特に高1・2生は、塾の授業を休みがちです。しかし、そこでやっているのは、学校のテスト勉強であって、科目によってはテストが終わった瞬間忘れさられる運命にあります。
 勉強に効率や効果を求めるくせに(それはもしかしたら授業を受けすぎて時間がないからかもしれませんが)、彼ら/彼女らは、学校の勉強と受験勉強がどうやら違うものだと思っているらしく、学校のテスト勉強とは別に受験勉強をしようとします。

 しかし、本当に、学校の勉強と受験勉強は違うものなのでしょうか。


 当たり前の話ですが、私は、高校生たちには高校の授業をちゃんと活用してほしい、と思っています。
 塾や予備校で無意味に授業をたくさんとっている姿を見ると、(立場上言えないからこそよけい)そんな時間があるなら自分でちゃんと勉強しろよ、と言いたくなります。
 きっと、高校生は、成績が伸びない理由をコンテンツの問題だと思っているのでしょう。
 いい授業を受ければ、成績が伸びる。たしかにそうした面もあるでしょう。教える側として、よりいい授業をめざすのは当然です。
 しかし、そもそもの「学び」のあり方自体が歪んでいるように思うのは私だけでしょうか。
 もしやる気があるのに空回りしているなら、それを手助けしたい。

 そのためには、高校生の「学び」のあり方をよりよくする必要があります。
 「あざみ野塾」の基本理念は、ここにあります。地域限定の小さな塾ですが、「学び」について学ばせたいと、有志が集まってくれました。

 塾の内装を頼んだ業者は、「あざみ野塾」を小学生向けの塾だと勘違いしていました。それは、部屋の構造を相談した時に、音読をさせるからうるさくないかな、と何度も聞いていたからです。
 語学の基本は、音読です。英語も、現代文も、古文も、漢文もそうだと私たちは思っています(可能なら、社会も)。
 それが基本になっていないなら、いくら文法を勉強しても、どれほど身につくでしょう。
 でも、業者が勘違いしたように、高校生が音読するなどということは常識になっていないし、ほとんどの高校生がやっていません。
 古文が苦手だからどうしたらいいのか、と相談された高3生に、まず音読をしろ、とアドバイスしたら、数週間後に、効果が感じられないと言われました。高校生の認識など、そんなものです。音読したら成績が上がる、などと私は言いませんでした。上げたいなら、まず音読を始めろ、と言っただけです。
 学ぶことは楽しいことだといわれます。でも、それ以上に辛いことも多い。面倒くさくて泥臭いことをコツコツやっていかなければならない。それが結果的には効率的で効果的だということを教える塾にしたいと思っています。


 しかし、それだけでは足りません。
 それを実感したのが、今年(2012年)2月にやった明治書院の研修会でのことです。明治書院から、高校の授業で評論をどう教えたらいいのか、講義してくれ、と依頼されました。
 そこで、さまざまな高校の先生とかかわることができました。高校の先生は、予備校講師のように、のんきに授業に専念すればいいわけではありません。そのなかで、授業をよりよいものにしようと意欲を燃やしている先生たちがたくさんいることを知りました。
 そうした先生たちに対して、私ができることはないか。それが「学びネットワーク」です。
 たまにある研修会を通じて、現場を知らない予備校講師が一方的に何かを伝えるのではなく、高校の現場から実際の悩みや問題を拾い上げて、みんなで話しあえる場があればいいのではないか。
 それには、やはり教科書会社である明治書院の協力が必要だと思いました。交渉の結果、拙著『キーワード300』の改定とも絡む形で、明治書院が了解してくれました。


 私の役割は二つあると思っています。

 一つは、予備校講師としての経験を活かして、高校の授業に足りないと感じることを積極的に提案すること。将来的には、「学びネットワーク」主催の研修会やワークショップなどをやっていきたいと思っています。

 もう一つは、そこでの議論から出てきた貴重な意見を形あるものにしていくこと。私は、出版社とのパイプ役として、教材化を図っていきたいと思います。現場の生の声が反映した使いやすい教材が生まれるはずです。

 その出発点として、自分の本の改定を手伝ってもらう形になるのは心苦しいところもあるのですが、このコミュニティがうまくいくかどうかの試行も必要ですから、明治書院の積極的な協力が得られる形で進めていこうと思います。
 ちなみに、いろいろ出てきた意見は明治書院にも当然還元していきますが、明治書院に縛られない意見交換をしていいことは明治書院から了承を得ています。

 将来的には、国語関係だけでなく、いろいろな出版社がかかわってくれる大きなコミュニティになってほしいと願っています。

 「あざみ野塾」は教わる側の、「学びネットワーク」は教える側の「学び」をブラッシュアップする場だと考えています。「学びプロジェクト」では、それを〈高校を学びの場として中心化する〉と呼んでいますが、実は、それは、私自身の「学び」を見つめ直すことでもあると思っています。

 2017年3月から「あざみ野予備校」を始めました。当初「あざみ野塾」の高卒部門として立ち上げましたが、2018年3月から「あざみ野塾」=ブートキャンプ、「あざみ野予備校」=授業、という棲み分けで運営していきます。
 今後は、ウェブコンテンツの充実を図り、できるだけ早い時期にPodcastやYouTubeなどを利用したネット配信を始めたいと思っています。