変わる大学入試?〜本当に、AO・推薦入試は増えているのか〜

AO・推薦入試は5割を超えている⁉

 よく「AO・推薦入試は5割を超えた」と喧伝されています。
 それって本当でしょうか。

 実は本当です。
 が、はっきりいって、その実態はアヤシイ。というか、アブナイ。

「AO・推薦入試」という分類はない!

 そもそも、「AO・推薦入試」という表現にゴマカシがあります。

 現在の大学入試制度には、「一般選抜」以外に「総合型選抜」と「学校推薦型選抜」があります。
 「総合型選抜」は、かつて「AO入試」といわれたもの。
 「学校推薦型選抜」には2種類あって、「公募制推薦」と「指定校推薦」に分かれます。

 ポイントは、実質上、誰が合否を出すか、ということです。

 大学入試といいながら、「学校推薦型(指定校)」は、実質、高校が判定します。付属校や系列校からの、いわゆる「内部進学」も、ここに含まれます。
 だから、「学校推薦型選抜(指定校)」(+「内部進学」)を、一般的な大学受験に含めて論じてしまうと、大学受験の実像が見えてきません。

 もし大学受験を一般的に論じたいなら、大学が合否を判定する「一般選抜」、「総合型選抜」、「学校推薦型選抜(公募)」にかぎるべきです。

「一般入試」と「特別入試」

 そこで、〈あざみ野塾/あざみ野予備校〉では、次のように分類して、取り扱いたいと思います。

    一般入試…一般選抜
    特別入試…総合型選抜、学校推薦型選抜(公募)
    推薦入試…学校推薦型選抜(指定校)、内部進学

 この分類は、明治大学でも入試データとして用いられている分類です。
 
 一般的な大学受験を考える場合、この「一般入試」と「特別入試」に注目してはじめて大学受験の実像が見えてきます。
 いくつか、具体的に見ていきましょう。

例1:明治大学商学部

 まずは、一般入試の比率の高い大学です。

24年公表データ

 明治大学商学部24年度のデータです。

募集人数合格人数
定員1150人(入学者数)1104人
学部別入試500人1474人
全学部入試80人349人
共通テスト利用入試
(前期)
125人752人
共通テスト利用入試
(後期)
30人43人
一般入試計7352618
総合型選抜
(商業高校)
25人27人
総合型選抜
(共通テスト利用)
40人32人
特別入試計65人59人
「募集人数」ベースで考えると、、、

 まず、左側の「募集人数」の列を見てください。

 募集人数1150人に対して、一般入試735人+特別入試65人=800人。
 計算おかしいですよね。その差は、推薦入試(指定校推薦+内部進学)=350人が含まれていないからです。

 世の中では、一般入試が減っていることを強調するために、一般入試/定員=735人/1150人という数が取り上げられます。
 一般入試比率が高い明治大学でさえ、一般入試は定員の6割強にすぎない、と。

「募集人数」ベース:定員

一般入試は定員6割強

 が、その計算、本当に正しいでしょうか。
 推薦入試(指定校推薦+内部進学)は、実際には受験しません。
 だから、推薦入試350人を抜いた735人/800人で考えるべきですよね。

「募集人数」ベース:受験者

一般入試は受験者9割強

「合格人数」ベースで考えると、、、

 いや、実はそれもまちがっています。
 というのは、実際の合格人数は募集人数よりもずっと多いからです。
 合格人数は、入学しない合格者の数を見越したものです。

 上の表の右側を見てください。
 「合格人数」ベースで考えると、一般入試:特別入試=2618人:59人

「合格人数」ベース

一般入試は合格者98%

 明治大学商学部の受験を考える場合、せめて一般入試:特別入試=735:65で議論すべきですが、実態を考えるなら、2618人:59人で議論すべきです。

明治大学全体:「入学人数」ベースで考えると、、、

  入学者総数:7561人
   一般入試:5306
   特別入試:600
   推薦入試:1655人

 最後に、明治大学全体の入学人数を見てみましょう。

 比率は、見た目で、一般入試:特別入試=5306人:600人
 最初にあげた表によれば、最低でも3倍の合格者が出ているはずですから、「合格人数」ベースで考えると、15000人以上:600人が実態のはずです(が正確なデータはないので、グラフ化しません)。

「入学人数」ベース

一般入試は入学者7割

 データを見るかぎり、明治大学は、一般入試が圧倒的に受かりやすい大学だといえます。
 特に商学部の特別入試は、特殊な条件をクリアする必要があるので、まったくお勧めできません。

例2:早稲田大学政経学部

 次に、一般入試の比率が低い(といわれる)大学です。

24年公表データ

 早稲田大学政経学部24年度のデータです。

募集人数合格人数
定員900人(入学者数)987人
一般選抜300人516人
共通テスト利用入試50人662人
一般入試計350人1178人
総合型選抜(23/9入学)100人260人
外国学生20人21人
グローバル入試(帰国生)約30人51人
特別入試計150人332人
指定校推薦約90人87人
内部進学約280人約280人
推薦入試計370人367人
「募集人数」ベースで考えると、、、

 「募集人数」ベースで見ると、

    一般入試(一般選抜+共通テスト利用入試)=350人
    定員=900人
     ↓
    350/900=4割弱

「募集人数」ベース:定員

一般入試は定員4割弱

 「ほらね」という声が聞こえます。
 この計算に基づいて、いろいろな記事や広告が打たれています。
 「早稲田大学政経学部は、一般入試がとうとう4割を切った!」

 が、本当にその計算合っていますか?
 そもそも、特別入試のうち外国学生、グローバル入試は、外国人と帰国生を対象にした特殊な入試ですし、推薦入試(指定校推薦+内部進学)は、高校内部でのセレクションです。
 普通の高校生が実際に受験できるのは、9月入学の総合型選抜だけです。

   一般入試:特別入試=350人:100人
    ↓
   350/450=8割弱  

 これが、「募集人数」ベースの現実的な比率です。

「募集人数」ベース:受験者

一般入試は受験者8割弱

「合格人数」ベースで考えると、、、

 でも、この数もまだ実数とはいえません。
 「合格人数」ベースで見るべきです。

    一般入試:特別入試=1178人:260人 
     ↓
    1178/1438=8割強

「合格人数」ベース

一般入試は合格者8割強

 さて、どちらが受かりやすそうに見えますか?

数字のマジック

 AO・推薦入試をウリにする塾/予備校は、ウソをいっているわけではないですが、事実を語っているわけでもありません。
 入試制度を一般入試とそれ以外に分けて、一般入試がいかにも少ないように見せているのです。
 まあ、「数字のマジック」や「印象操作」の類いですね。

 しかも、「March以上の大学で特別入試に合格するためには一定以上の成績が要る」ことを伏せている。
 要項的には成績不問であっても、実際問題として、成績の悪い高校生は合格しません。
 ある程度以上の知識や常識なしに、論文やプレゼン、面接などをクリアできると思いますか。

例3:麗澤大学外国語学部 

 最後に、特別入試の比率が非常に高い大学です。
 千葉にある、語学教育で評判の高い大学です。

24年公表データ

 麗澤大学外国学部24年度のデータです。

募集人数合格人数
定員約190人(入学者数)220人
一般選抜

共通テスト利用入試
約95人1717人
一般入試計95人1717人
総合型選抜約55人113人
特別入試計55人113人
学校推薦型選抜
指定校推薦
約40人92人
推薦入試計40人92
「募集人数」ベースで考えると、、、

 「募集人数」ベースで見ると、一般入試:特別入試=95人:55人

「募集人数」ベース:定員

一般入試は定員6割強

「合格人数」ベースで考えると、、、

 「合格人数」ベースで見ると、1717人:113人
 ここでも、一般入試が受かりやすいことがわかります。

「合格人数」ベース

一般入試は合格者94%

 しかし、こうした大学の特徴は、特別入試の合格率と実際の入学者の内訳です。

特別入試合格率の比較

 まず、特別入試の合格率から見ていきましょう。

             合格人数/受験人数
   明治大学商学部   59人  /109人
   早稲田大学政経学部 260人 /415人
   麗澤大学外国語学部 113人 /119人

特別入試の合格率

合格人数は受験人数95%

 一見してわかるのが、麗澤大学の特別入試はほとんど受かるということです。

実際の入学者の内訳

        一般入試:特別入試:推薦入試
   募集人数 95    :55  :40
   合格人数 1717 :113  :92
   入学人数 50 :79 :91

 「合格人数」ベースで考えると、一般入試が圧倒しているのですが、「入学人数」ベースで考えると、人数が逆転します。
 さらに、指定校推薦の入学者91人(辞退1人)が加わると、、、

「入学人数」ベース

一般入試は全体2割強

願書を出せば受かる!

 私大の6割が定員割れだといわれています。
 麗澤大学は定員割れしていませんが、一部の安泰な私大を除いて、かなりの数の私大が、学生を確保するための手段として、特別入試を活用しています。

 「願書を出せば受かる」大学がかなりの数あることを知ってほしいと思います。
 そのなかには、麗澤大学のような、隠れた名大学も含まれていますから、一概に否定できません。うまく活用すれば、受験に幅が出ることはたしかです。

一般入試が5割を切っている!

推薦入試はたしかに増えている

 大学入試の現状は、「AO・推薦入試が5割を超えている」というより、「一般入試が5割を切っている」というのが正確でしょう。

 先にも書きましたが、私大の6割が定員割れです。
 そうした状況のなかで、できるだけ質のいい学生を確保したい。
 と思うのは、自然な流れです。
 その最初の手段が、推薦入試(指定校推薦+内部進学)です。
 明治大学や早稲田大学でも、推薦入試が活用されています。
 それぞれの大学の募集人数/定員です。

    明治大学商学部   350人 /1150人
    早稲田大学政経学部 370人 /900人
    麗澤大学外国語学部 40人  /190人

  麗澤大学外国語学部の指定校推薦は、「募集人数」ベースで40/190ですが、「入学人数」ベースで91/220。入学者の4割強が指定校推薦でした。

一般入試の方が受かりやすい

 今後も、内部進学と指定校推薦が大学入学者の多くを占める趨勢は変わらないはずです。
 そして、入学者を確保しきれない大学は、「願書を出せば受かる」特別入試(総合型選抜+学校推薦型選抜(公募))も活用します。
 数だけを考えれば、たしかに一般入試よりそれ以外の入試の方が多いでしょう。
 が、現実的に大学入試といえるのは一般入試と特別入試だけであって、募集人数ではなく合格人数を考えると、一般入試が特別入試を圧倒しています。
 その事実は誰にも否定できません。

命を懸けるべきなのは、、、

 〈あざみ野塾〉は、特別入試を否定していません。指定校推薦も否定しません。
 利用できるものはすべて利用すべきです。

 が、特別入試や指定校推薦に命を懸けるのは「違うな」と思います。私たちには迷いごとにしか思えない。
 そもそも、受験勉強に懸命になること自体が、その人の人生において貴重な体験であり、貴重な人生の予行演習です。その体験を経験しないまま、大学生、社会人になっていいと思いますか。